東京高等裁判所 平成10年(行ケ)145号 判決 1999年4月14日
東京都港区赤坂3丁目4番3号
原告
株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
代表者代表取締役
山田敏
訴訟代理人弁護士
佐藤雅巳
同
古木睦美
東京都墨田区緑2丁目14番12号
被告
東洋エンタープライズ株式会社
代表者代表取締役
小林進
訴訟代理人弁護士
伊藤真
同
弁理士 野原利雄
主文
特許庁が、平成7年審判第28124号事件について、平成10年4月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、別紙表示のとおりの構成からなり、第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」を指定商品(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による。以下同じ。)とする登録第2710099号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
本件商標は、平成4年2月6日にスコット・エス・カジヤ(以下「カジヤ」という。)が登録出願し、平成6年12月2日に出願公告がなされ、平成7年9月29目に設定登録された後、同年10月16日にカジヤから原告に商標権譲渡がなされ、平成8年3月28日にその商標権移転登録を経たものである。
被告は、平成7年12月18日、カジヤを被請求人として、本件商標につき登録無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年審判第28124号事件として審理した(上記商標権移転登録に伴って原告がカジヤから被請求人の地位を承継)うえ、平成10年4月10日に「登録第2710099号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月11日、原告に送達された。
2 審決の理由の要旨
審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人(被告)が本件審判を請求するについて利害関係を有する者であるとしたうえ、本件商標が、その構成中に法人名称といえる「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字部分(以下「本件文字部分」という。)を有してなるものであり、これを自然人である前被請求人(カジヤ)が使用する場合、他の法律によって禁じられている法人でない者が法人格を表す語である「株式会社、有限会社」等を用いてはならないとの規定に該当し、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益を害するものであって、商標法4条1項7号に違反して登録されたものであるから、同法46条1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本件審判を請求するについての被告の利害関係の有無の判断を誤り(取消事由1)、さらに、本件商標が商標法4条1項7号に違反して登録されたものである旨誤って判断した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(審判請求をするについての利害関係の有無の判断の誤り)
審決は、「請求人(注、被告)は、被請求人(注、原告)から本件商標他1件の登録商標を根拠に警告を受けていることが・・・認められる。してみれば、請求人は、本件商標の登録が存続することにより不利益を被るおそれがあること明らかであるから、本件審判を請求をするについて利害関係を有する者といわなければならない。」(審決書26頁22行~27頁4行)と判断したが、それは誤りである。
すなわち、次の事情に照らせば、本件無効審判請求は権利の濫用であって、被告に、法律上正当な無効審判請求の利益はないものというべきである。
アメリカ合衆国において、1901年に設立されたオートバイメーカーであるインディアン・モトサイクル・カンパニー(当初の商号は「ヘンディー・マニュファクチュアリング・カンパニー」、以下「米国インディアン・モトサイクル」という。)は、特徴ある筆記体の「Indian」の文字(以下「インディアンロゴ」という。)からなる商標や、羽根飾りを冠したアメリカインディアンの右向きの図形(以下「インディアン図形」という。)からなる商標を用いてオートバイの製造販売の業を営んでいたが、1953年に操業を停止し、後に解散した。しかし、同社の製造したオートバイは多くの愛好者を有していたところ、1990年にフィリップ・ザンギ(以下「ザンギ」という。)が、アメリカ合衆国において、インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(以下「ザンギ インディアン・モトサイクル」という。)を設立し、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を使用したオートバイ、アパレル製品、アクセサリー等の製造販売を開始し、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を付したこれらの商品の正当な出所として社会的に認知された。
カジヤは、平成3年に、ザンギ インディアン・モトサイクルから、日本における、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を付したアパレル製品、アクセサリー等の商品についての営業一切に係る権利の譲渡を受け、インディアンロゴ、インディアン図形等からなる本件商標についての登録出願をし、その設定登録後、平成5年に設立された原告に対し、本件商標に係る商標権を譲渡したものである。そして、原告は、株式会社サンライズ社に本件商標についての使用を許諾し、同社がさらにマルヨシほか数社にその使用を再許諾して、衣類、バッグ、身回品等の販売を開始し、平成6年までには、本件商標が原告の商標として周知となった。
他方、被告は、ザンギ インディアン・モトサイクルの営業の開始を知り、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を付した商品に係る営業がやがて日本でも展開されることを見越し、これに便乗することを企図して、「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字からなり、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第2634277号商標(平成3年11月5日出願、平成6年3月31日設定登録、以下「被告商標」という。)を取得し、平成7年5月ころから、インディアンロゴ等の標章を付した輸入衣類等の販売を開始した。そして、被告は、上記販売行為につき、原告から警告を受け、さらに原告の申請に係る仮処分決定を受けた後もこれを継続し、市場を混乱させて、原告や株式会社サンライズ社等に多大の損害を与えた。
被告の本件無効審判請求は、このような悪質な不正競争を正当化し、これを継続するためになされたものであるから、権利の濫用にほかならず、被告に、法律上正当な無効審判請求の利益はない。
2 取消事由2(本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの判断の誤り)
審決は、本件文字部分中の「Co.,Inc.」が、法人組織(有限責任会社)であることを示す「Company Incorporated」の略語として一般に使用され、我が国においても知られているとし(審決書27頁11~14行)、本件商標が、その構成中に法人名称といえる本件文字部分を有してなるものであり、これを自然人である前被請求人(カジヤ)が使用する場合、他の法律によって禁じられている法人でない者が法人格を表す語である「株式会社、有限会社」等を用いてはならないとの規定に該当し、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益を害すると判断した(同28頁9~15行)が、それは誤りである。
すなわち、審決のいう「他の法律」とは、商法18条1項、有限会社法3条2項のことであるが、これらの条項は、会社(有限会社)でない者が、商号中に会社(有限会社)であることを示すべき文字を用いることを禁止しているものである。しかしながら、本件商標は、カジヤが登録出願し、設定登録を受けた商標であって、カジヤの商号ではないから、カジヤが本件商標を使用することが、上記各条項による禁止の対象に当たらないことは明白である。
また、商標法4条1項8号は、他人の名称であっても、その他人の承諾を得て商標登録を受けることができる旨を定めているところ、該「他人の名称」には商号も含まれると解されている。さらに、商標法上、法人が自己の商号を含む商標の登録を受けた後、これを法人でない第三者に対し、譲渡したり使用権の設定をしたりすることも認められている。したがって、商標法上、法人でない者が、法人の名称を含む商標の登録を受け、あるいはこれを使用すること自体が、直ちに公序良俗に反するものとされているわけではない。
以上のように、本件商標をカジヤが使用する場合、他の法律の規定に該当するとの審決の判断は誤りであり、この判断を前提とする、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益を害するとの判断も誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 取消事由1(審判請求をするについての利害関係の有無の判断の誤り)について
(1) 被告は、被告が販売する衣料に付した標章について、原告から、平成9年10月7日付書面により、該標章が本件商標ほか1件の商標に係る原告の商標権を侵害するとして、該標章の使用の停止等を求める警告を受けた。
しかしながら、該標章は、社会通念上、被告商標と同一であり、その使用は被告商標の使用にほかならない。他方、本件商標の登録は違法であり、被告は、本件商標の登録が継続することにより、被告商標の使用に重大な制約を受けている。
したがって、「請求人(注、被告)は、被請求人(注、原告)から本件商標他1件の登録商標を根拠に警告を受けていることが請求人の提出に係る甲第25号証(請求人宛の被請求人からの平成9年10月7日付の警告書)によって認められる。してみれば、請求人は、本件商標の登録が存続することにより不利益を被るおそれがあること明らかであるから、本件審判を請求をするについて利害関係を有する者といわなければならない。」(審決書26頁22行~27頁4行)とした審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、被告の本件無効審判請求が権利の濫用であり、被告に法律上正当な無効審判請求の利益はない旨主張するが、上記(1)の警告を受けた事実によって、被告が本件無効審判の請求につき利害関係を有することが基礎付けられるものである。
加えて、原告が上記主張の根拠として主張する事実は、米国インディアン・モトサイクルに係る部分を除き、誤りである。
すなわち、ザンギは、その設立に係るザンギ インディアン・モトサイクルが、米国インディアン・モトサイクルとは何らの関係もないのに、これと同一の商号を称し、その社章的商標をデッドコピーした商標(本件商標と同一の構成によりなるもの)を使用するなどして、米国インディアン・モトサイクルと何らかの関係があるかのように装い、多くの投資家から金員を騙取したうえ、それを個人的に費消したものであって、ザンギ インディアン・モトサイクルは何らの事業活動もせずに、設立後まもなく倒産し、ザンギ自身は、詐欺等の罪状により実刑判決を受けて収監されている。したがって、ザンギインディアン・モトサイクルが、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を使用したオートバイ等の製造販売を開始し、それらの商標を付した商品の正当な出所として社会的に認知された事実などは全く存在しない。
原告は、カジヤがザンギ インディアン・モトサイクルから、日本における、インディアンロゴ、インディアン図形等の商標を付したアパレル製品、アクセサリー等の商品についての営業一切に係る権利の譲渡を受けたと主張する一方で、被告による被告商標の取得及び販売活動が、ザンギ インディアン・モトサイクルによるインディアンロゴ、インディアン図形等の商標を付した商品に係る営業が日本でも展開されることを見越して、これに便乗する行為であり、不正競争であるかのように主張するが、このような主張が誤りであることは、上記のとおり、ザンギ インディアン・モトサイクルが米国においても何らの事業実績を有さず、単にザンギによる詐欺行為の道具であったにすぎないことに照らして明らかであるし、被告は、ザンギ、ザンギ インディアン・モトサイクルとは無関係に被告商標を採択したものである。
2 取消事由2(本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの判断の誤り)について
本件文字部分中の「Co.,Inc.」が、法人組織(会社)であることを示す「Company Incorporated」の英略語であり、我が国においても一般にそのように認識理解され、かつ、多用されていることは明らかである。したがって、本件商標がその構成中に法人商号を表す文字(本件文字部分)を含むものであり、本件商標の使用が法人商号の使用であることも明白である。
原告は、本件商標が、カジヤが登録出願し、設定登録を受けた商標であって、カジヤの商号ではないと主張するが、商標と商号とは概念的には別異のものであっても、実際上は明確に区別し得るものではなく、商標が商号として、あるいは商号が商標として使用され、機能することがあるのであり、登録出願に係る商標中に「株式会社」、「Co.,Inc.」等の法人表記が含まれている場合には、その出願人の主観的意図又は個別的・具体的事情にかかわらず、客観的に見て、当該商標が法人である商人の名称、すなわち会社の商号であると認識理解されるものであるから、社会通念上、商号として、商法の商号に関する規定が適用されるものであり、出願人がその商号を使用することが、商法18条1項に違反する場合には、商標法上も、4条1項7号に当たる商標として、その登録を拒絶するのが当然である。自然人のように会社でないものが会社であることを示す商号を用いた場合には、当該商品が該商号会社の業務に係る商品であって、その商品についての責任はその商号会社が果たすものと信じた取引者・需要者の期待を裏切り、商品の出所の混同、取引の混乱を招いて、ひいては社会公共の利益に反するからである。
原告は、商標法上、法人が自己の商号を含む商標の登録を受けた後、これを法人でない第三者に対し、譲渡したり使用権の設定をしたりすることも認められているとも主張するが、商標法上、かかる行為が積極的に容認されると解すべき根拠はない。
なお、商標が商法18条に違反する場合には、商標法4条1項7号に該当するものとして登録が拒絶されることは、確立された解釈であり、審査実務上もそのように扱われ、その旨の審決も多数存在する(乙第32~第40号証)。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審判請求をするについての利害関係の有無の判断の誤り)について
乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告の代理人である弁護士古木睦美及び同佐藤雅巳の作成に係る平成9年10月7日付の「警告書」と題する書面によって、被告が筆記体の「Indian Motocycle」の欧文字からなる標章を付して革製ジャケットその他の衣料を販売する等の行為が、本件商標ほか1件の商標に係る原告の商標権を侵害する行為であるとして、該標章の使用停止等の請求を受けた事実を認めることができる。そうすると、本件商標の登録が存続することにより、被告が法律上の不利益を受けるおそれがあることは明白であるから、被告は、本件無効審判を請求するにつき利害関係を有するものというべきである。
原告は、被告の本件無効審判請求が権利の濫用であり、被告に、法律上正当な無効審判請求の利益はないとして縷々主張するが、その主張するところは、要するに、被告の行為が本件商標に係る原告の商標権を侵害するものであるということにほかならず、被告が、本件無効審判を請求するにつき利害関係を有するとの前示判断に影響を及ぼし得るものではない。
したがって、「請求人(注、被告)は、被請求人(注、原告)から本件商標他1件の登録商標を根拠に警告を受けていることが請求人の提出に係る甲第25号証(請求人宛の被請求人からの平成9年10月7日付の警告書)によって認められる。してみれば、請求人は、本件商標の登録が存続することにより不利益を被るおそれがあること明らかであるから、本件審判を請求をするについて(注、「請求するについて」の誤記と認められる。)利害関係を有する者といわなければならない。」(審決書26頁22行~27頁4行)との審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの判断の誤り)について
審決は、本件商標が、商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する理由として、「本件商標は、その構成中に法人名称といえる文字部分(注、本件文字部分)を有してなるものであるから、これを自然人である前被請求人(注、カジヤ)が使用する場合、他の法律によって禁じられている法人でないものが法人格を表す語である『株式会社、有限会社』等を用いてはならないとの規定に該当し、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益をも害する」旨説示するところ、該説示における「他の法律」とは商法18条1項及び有限会社法3条2項を指すものと解される。
しかしながら、商法18条1項は「会社ニ非ズシテ商号中ニ会社タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ」と規定するところ、同法52条1項は「本法ニ於テ会社トハ商行為ヲ為スヲ業トスル目的ヲ以テ設立シタル社団ヲ謂フ」と定め、さらに同法53条は「会社ハ合名会社、合資会社及株式会社ノ三種トス」と定めているのであるから、同法18条1項の「会社」が、同法62条以下の規定によって設立された合名会社、同法146条以下の規定によって設立された合資会社又は同法165条以下の規定によって設立された株式会社のいずれかを指すものであることは明らかである。また、有限会社法3条2項は「有限会社ニ非ザル者ハ商号中ニ有限会社タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ」と規定するところ、同法1条1項は「本法ニ於テ有限会社トハ商行為其ノ他ノ営利行為ヲ為スヲ業トスル目的ヲ以テ本法ニ依り設立シタル社団ヲ謂フ」と定めているから、同法3条2項の「有限会社」が同法の規定によって設立された有限会社をいうものであることも明白である。
ところで、審決が本件商標の構成中に含まれる法人名称といえる文宇部分であるとする本件文字部分は「Indian Motocycle Co.,Inc.」というものであるが、そのうちの「Co.,Inc.」の部分が、有限責任会社であることを示す「Company Incorporated」の略語として一般に使用され、そのことが我が国においても知られているとしても、それが商法に基づいて設立された株式会社又は有限会社法に基づいて設立された有限会社を一義的に意味するものでないことも公知の事実というべきである。そうすると、被告の主張のように、商標と商号とが実際上明確に区別し得るものではなく、商標が商号として機能することがあるとしても、商標の構成中に「Co.,Inc.」を含む文字部分があるがため、当該商標が商号として機能したときに商法18条1項又は有限会社法3条2項に違反するといえるためには、当該「Co.,Inc.」を含む文字部分が商法に基づいて設立された株式会社又は有限会社法に基づいて設立された有限会社を示すことが客観的に明らかであることを要するものと解するのが相当である。
しかるところ、本件文字部分である「Indian Motocycle Co.,Inc.」は、それ自体によっても、本件商標の他の構成部分に照らしてみても、商法に基づいて設立された株式会社又は有限会社法に基づいて設立された有限会社を示すことが客観的に明らかであるとは到底いい難いから、「本件商標は、・・・これを自然人である前被請求人が使用する場合、他の法律によって禁じられている法人でないものが法人格を表す語である『株式会社、有限会社』等を用いてはならないとの規定に該当し」とした審決の判断は誤りというべきである。そうすると、該判断を前提として、本件商標が、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益をも害するもので、商標法4条1項7号に該当するとした判断も誤りであるといわなければならない。
なお、商標が商法18条に違反する場合に商標法4条1項7号に該当するものとして登録が拒絶される旨を示した審決例として被告が堤出した乙第32~第40号証は、いずれも商標の構成中に含まれる法人名称といえる文字部分が、それ自体によって、又は当該商標の他の構成部分に照らして、商法に基づいて設立された株式会社を示すものと客観的に認められるものであるから、本件とは事案を異にするものといわざるを得ない。
3 よって、審決は違法であって、原告の本件請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
(別紙)
本件商標
<省略>
平成7年審判第28124号
審決東京都墨田区緑2丁目14番12号
請求人 東洋エンタープライズ株式会社
東京都千代田区神田淡路町2丁目13番4号 セントラルお茶の水702号
代理人弁理士 野原利雄
東京都千代田区神田淡路町2丁目13番4号 セントラルお茶の水702号
代理人弁理士 本田ゆたか
東京都中央区新富一丁目15番14号 相互21新富ビル301号
代理人弁護士 菅田文明
東京都港区赤坂3丁目4番3号
被請求人 株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン
東京都港区南青山3丁目18番11号 ヴァンセットビル202号室
代理人弁護士 佐藤雅巳
東京都港区南青山3丁目18番11号 ヴァンセットビル201号室古木睦美法律事務所
代理人弁護士 古木睦美
上記当事者間の登録第2710099号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
登録第2710099号商標の登録を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
1.本件登録第2710099号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、平成4年2月6日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」を指定商品として、同7年9月29日に設定登録がなされているものである。
2.請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2634277号商標(以下、「引用商標」という。)は、「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字を横書きしてなり、平成3年11月5日登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、同6年3月31日に設定登録がなされているものである。
3.請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を概略次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至甲第27号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
本件商標は、その構成中の下段部分において明らかに商号(法人名称)の英文表記と判断される文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」が表示されており、かつ当該商号が前被請求人(出願人)の氏名と相違することは明白である。
上記英文字中「Co.,Inc.」の部分が、会社(法人)であることを示す「Company Incorporated」の略英字であり(甲第5号証)、このことは「Co.,Inc.」の文字がわが国法人にあっても自己の商号を英文表記する際、法人であることを示す略英字として多用され社会的にもそのように広く認識されていること、さらには審査実務例からも疑いのないところである。
前被請求人は、自然人であって法人ではなくしかも自己の氏名と全く異なる名称を登録することは、商法上の原則(<1>会社でないものが会社であることを示す文字を用いてはならない。<2>会社は-営業に付き-商号しか有することが出来ない。)に反するものである。
また、個人が自己の氏名と全く異なる法人名称を使用することは、取引者、需要者が当該商号会社の業務に係る商品であると信じ、当該商品に関する責任はその商号会社が果たすものと信じて取引されるのが通常であることを考えれば、このような商標の登録は取引者、需要者の期待を裏切り商品の出所の誤認と取引の混乱を招き、ひいては社会公共の利益に反し、公の秩序を乱すものといわなければならない。
審査・審判例においても出願人の氏名又は名称と異なる名称が商標として採択出願された場合は、本号に該当するものとしてその殆どが拒絶されている(甲第6号証の1ないし4)。
してみると、本件商標には例外的に登録が認められた審決例(甲第6号証の5乃至7)のような特別な事情は全くなく、明らかに出願人氏名と異なる名称を商標として採択出願したものであり、審査においてもかかる主旨に基づき、一旦は拒絶理由通知(甲第7号証)を出されたものである。
前被請求人は、提出した意見書(甲第8号証)において、本件商標は、商号部分「Indian Motocycle Co.,Inc.」のみでなくその上段に「インディアン(図形)とIndian(文字)」が配されているから商号商標ではないと主張するが、商号のみからなる商標でなく他の構成要素が含まれているものは商号商標ではなく、本号の適用外であるとするならば商号商標に対しての本号に関する従来の審査、審判、判例ならびに学説の適用解釈は全く無意味なこととなり到底容認できる主張ではない。
本件商標の態様は、前記したとおり少なくとも上段(インディアン図形・Indian)と下段(Indian Motocle Co.,Inc.)とに分離されており各々が要部として独立した識別機能を果たすものであって、本号の適用を逃れ得るものではない。
また、前被請求人は、商標法第4条第1項第8号においては他人の名称であってもその他人の承諾を得れば登録が認められるのであるから、本号についてもその他人の承諾を得ている場合には適用されないとの主張をするが、同第8号と本号とでは立法の主旨並びに適用目的が全く異なり、第8号が当該他人の私的利益との調和を図ることを主旨として設けられた規定であるのに対し、本号は他法によって使用が禁じられている商標、信義に反する商標、道徳観念に反する商標、さらには取引秩序を乱す商標等の登録を拒否して社会的秩序や一般公衆の利益である公的利益の保護を図ることを主旨とした規定である。
すなわち、本号は、社会公益の利益の保護を目的として定められた規定であるからして、一個人がその登録を承諾したか否かということは本号の適用にあたって全く関係のないことであり、前被請求人のかかる主張は明らかに法的解釈を誤ったものといわざるを得ない。
かりに、前被請求人の提出の同意書(甲第9号証)が第8号の適用を逃れるための事前の証明書と敢えて解釈するとしても、この同意書はつぎの理由によって形式的にも実質的にも有効なものといえない。
<1>同意者(The Indian Motocycle Company of Ameica)又は署名者(Philip S.Zanghi)は、日本における何らの権利も有しないばかりか、本件商標/指定商品に関し米国連邦商標登録の事実すらなく(甲第10号証)、いかなる権限に基づきかかる内容の許諾を与えたかは当事者間の問題であるとしても、提出された同意書の内容はあくまで商標の使用許諾であって、出願人が本件商標を登録することの承諾ではない。
<2>また、前被請求人は、本件商標が商号商標ではないと主張しているにも拘わらず、商号商標の登録を受けていると主張すること自体矛盾するものであるが、本件商標が同意者(The Indian Motocycle Company of Ameica)の正式名称とは必ずしも証明されでおらず、本件商標が単に提出された同意書のヘッド部分に表示されているにすぎない。
<3>さらに、上記同意書における同意会社は、今から大凡95年前に創設された同名の会社「Indian Motocycle Co.,Inc.」(以下、「インディアン社」と称す。)とは全く別法人であり、単に署名者Philip S.Zanghi氏が1992年に個人的に設立した米国会社であり、同意権の存在自体疑わしいばかりか、Zanghi氏の当該会社はその後2年程で実質的に倒産したとのことであり、出願時又は登録査定時に存在していたか否か甚だ疑問である。
(2)本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。<1>本件商標と引用商標とは、同一及び類似の称呼が生じる。
本件商標の構成は、「インディアン(図形)」、その図中に配した「Indian(筆記体英文字)」とからなる上段部と、「Indian Motocycle Co.,Inc.(筆記体・英文字)」の下段部とからなり、各々が要部として識別機能を果たし得るものである。
そして、「Indian Motocycle Co.,Inc.」からは「Co.,Inc.」の部分が会社を示す略字であることから、商標審査基準(甲第11号証および甲第12号証)に照らし、これを除外して看ると本件商標の下段部においては、「Indian Motocycle」が主要部であり、少なくとも、「インディアンモトサイクル」の称呼が生じることは明白である。
これに対して、引用商標は、横一連の片仮名文字で「インディアンモーターサイクル」と書してなるものであり、これからは「インディアンモーターサイクル」の称呼が生じることは当然として、わが国の英語普及度並びに「インディアン」及び「モーターサイクル」の語が一般的に広く認識され用いられている外来語であることを考えれば、引用商標が英語の「Indian」と「Motorcycle」とを一連に結合した日本語表記であることは十分認識理解されているところである。
してみると、本件商標の下段主要部から生じる称呼「インディアンモトサイクル」と引用商標の称呼「インディアンモーターサイクル」との相違は、中間音における「モト」と「モーター」の差異、すなわち同行音に属する「ト」と「タ」の相違及び前母音における長音符「ー」の有無の相違にすぎないのである。
しかも、本件商標も引用商標も長音符を除けば、何れも同数音で、12音という極めて冗長な称呼構成からなり、かつ、音調をも共通にするものであって、称呼上類似することは疑問の余地のないところである。
さらに、上述したごとく「インディアン(Indian)」も「モーターサイクル(Motocycle)」も、そり単語の意味(北米原住民・二輪自動車)を含めて一般的に広く認識理解されている外来語であること、並びに本件商標中の「Moto(モト)」は、「Motor(モーター)」の簡略語であることも周知の事実である(甲第13号証乃至甲第15号証)。
したがって、簡易迅速を旨とする取引界の事情を併せて勘案すると取引者、需要者は、「r」の有無をいちいち確認するものではなく、またかりに確認したとしても本件商標中の「Motocycle」の部分は、英単語である「Motocycle」として認識理解し、かつ「モーターサイクル」と称呼するものである。
かかる場合においては、本件商標と引用商標とは同一の称呼が生じるというべきである。
審査においても、一旦は本件商標と引用商標とが称呼において類似するものとし、拒絶理由通知(甲第16号証)を出されたものである。
しかるに、前被請求人において、両商標が類似しない旨の証明、あるいは正当な理由の釈明がないにも拘らず登録査定がなされたことは、先に述べた第7号違反の場合と同様に理解できないことである。
<2>本件商標と引用商標とは、同一の観念が生じる。
本件商標の下段主要部は、「Indian Motocycle」の英文字からなるものであるが、上述のごとく「Indian/インディアン」も「Motocycle/モーターサイクル」もその語義を含めて一般的に広く認識理解されている外来語であり、かかる英単語のスペルを簡易迅速を旨とする実際取引において需要者、取引者はいちいち確認するものではない。
しかも、この下段主要部とわが国に於て共に広く認識理解されている英単語の結合である「Indian Motocycle」との相違は、中間部において英語表記上しばしば省略されがちな長音を表すアルファベット「r」1文字の有無にすぎず、全体が冗長であることを考え併せれば需要者、取引者は、本件商標要部「Indian Motocycle」の部分を「Indian Motocycl」であると理解認識するもので、「インディアン(北米原住民)オートバイ(二輪自動車)」と観念するのが自然というべきである。
さらに、モーターサイクルスポーツの一種として、「オートバイで、舗装されていない山道や原野を走る競技」を「モトクロス」又は「モトクロスレース」と称し、わが国においても近時盛んに行なわれており、ここで用いられている「モト/Moto」は、「モーター/Motor」の簡略語であることも広く知られているところである(甲第13号証乃至甲第15号証)。
したがって、本件商標中「Motocycle」の部分に付き、かりに取引者、需要者がそのスペルまで確認したとしても、本件商標のこの部分からは当然「オートバイ/二輪自動車」の意味が生じ、そのように理解認識するものである。
これに対して、引用商標は片仮名文字で「インディアンモーターサイクル」と一連に書してなるものであり、これからは英単語である「Indian Motocycle」を認識し、「インディアン(北米原住民)オートバイ(二輪自動車)」を観念することは前記諸事情よりして明白なところである。
してみると、本件商標要部である「Indian Motocycle」と引用商標「インディアンモーターサイクル」とは、共に同一の観念が生じ、両商標は相類似するものである。
(3)以上に詳述のごとく、本件商標は明らかに出願人氏名と相違する名称であるからして、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものであり、また、本件商標は、引用商標と同一又は類似の称呼並びに同一の観念が生じるものであり、その指定商品においても相抵触するものであるからして、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
よって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により、無効とされるべさものである。
(4)利害関係について。
被請求人は、請求人は本件審判請求について法律上の利益、すなわち請求適格を有さないのであるから、不適法な審判請求として却下すべきであるとの主張をする。
しかしながら、本件商標は、引用商標と明らかに類似するもので、審査においても一旦は引用商標に類似するものとして拒絶理由通知(甲第16号証)が発せられたところであり、その結果に付いて請求人は重大な利害関係を有する。
両商標が類似する根拠は、請求書において述べた理由の他、現実取引においても本件商標が付された被請求人商品は「インディアンモーターサイクル」と称せられ取引され、被請求人自らも「Indian Motorycle」と表示使用している事実(甲第23号証乃至甲第24号証)からも明白である。
さらに被請求人は、商標法第50条第1項の規定からも登録商標の使用範囲(専用的使用範囲)として明確に認められている使用(一連一体からなるIndian Motocycleの使用)行為に対してまで本件商標の侵害行為であるとして警告書(甲第25号証)を送り付けているものである。
前被請求人は、本件商標に関する意見書(甲第17号証)において「本件商標は、インデアンモトサイクルカンパニーインクのみの称呼が生じ、しかもそのスペルがMotorではなくMotoであるから、引用商標インディアンモーターサイクルとは類似しない。」としながら、上記警告書においては逆に、「Indian Motocycleの使用は本件商標の侵害である。」とし、自らが本件商標と引用商標との類似関係を主張しているものである。
かかる状況は商標の二重登録に起因するものであり、本件商標登録の存在は請求人所有の商標権の効力や業務に重大な制約(影響)を与えるもので、商標法第25条、同法第37条、並びにパリ条約第5条C(2)の規定からして違法状態にあり、当該引用商標の商標権者である請求人が本件審判請求に付いて法律上の正当な利益を有することは明らかなところである。
また被請求人は、前記警告書(甲第25号証)の発送に先立ち、本件商標登録前より請求人の商標使用に対して侵害である旨の警告書(甲第26号証)を発し、登録後にあっては請求人の商標使用を商標権侵害として訴を提起(甲第27号証)しているものであり、当該訴訟事件の被告当事者である請求人が本件審判請求について法律上の利害関係を有することは当然である。
そもそも、本件商標に関する訴訟事件の一方当事者(原告)である被請求人が他方当事者(被告)である請求人に対して、本件審判請求に付いての利害関係を争い、その疎明立証を求めること自体理解し難いところであり審理遅延を意図したものにすぎない。
本件商標は元来、1991年に米国法人として設立され、大凡40年前の1959年に解散消滅した自動二輪メーカー「Indian Motocycle Co.,In.(インディアン社)」の社章的標章を、出願人(スコット エス カジャ)がそのままデッドコピー(丸写し)したものを第17類(被服等)の商標として採択出願したもので、しかも被請求人(及び出願人)は当該インディアン社とは法的にも事実的にも何等関係がないにも拘わらず、あたかも当該インディアン社と何等かの関係があるかのような商標使用及び宣伝により我が国においてライセンス業務を展開し、商品需要者、取引者にかかる印象を与えることによって、引用商標を使用する請求人の信用を著しく毀損せしめているものであり、このことからしても商品の需要者及び取引者を共通とする請求人は、引用商標と類似するのみならず、商法の商号使用に関する基本原則に違反するような本件商標の登録無効を請求することに付いて十分な理由があるというべきである。
4.被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、証拠方法として乙第1号証乃至乙第27号証を提出している。
(1)商標登録の無効審判請求が適法であるためには、請求人が登録商標の無効審判を請求する正当な法律上の利益すなわち請求適格を有することを要し、かかる請求適格を欠いた者による請求は不適法として却下される。しかるに、請求人はかかる請求適格を一切主張立証していない。
請求人は、前述の如く請求適格を何ら主張しないから、本件審判請求は不適法であり、本件審判請求は成り立たないこと明らかである。
ところで、請求人は、本件審判請求において、商標法第4条第1項第7号及び同第11号に基づいて本件商標の登録無効を主張するが、かかる主張はいずれも理由を欠き失当であり、被請求人は本件審判請求は成り立たない、審判請求は請求人の負担とするとの審決を予備的に求める。
(2)本件審判請求は権利の濫用であり、請求人に本件商標の無効審判を請求する法律上正当な利益はない。
本件商標を使用したライセンスビジネスは、1991年(平成3年)7月米国においてまず開始され、日本においては1993年(平成5年)6月被請求人が設立され開始された。
本件商標を付した商品は、米国でも日本でも開始早々ブームとなった。
請求人は、米国で本件商標を使用した商品化事業の開始が報じられた平成3年7月の直後である平成3年11月、引用商標である片仮名「インディアンモーターサイクル」を第17類に商標登録出願し、平成6年に登録を得た。
一般に請求人のようなブランド物を扱う会社は、外国ブランド情報を集め商機を窺っており、上記米国の新聞報道を見る機会があったことは確実であり、かつ外国でスタートしたブランドがやがて日本に上陸することは業界の常識であり、請求人は、本件商標のライセンスビジネスが近々に日本においても展開されるであろうことを予測して引用商標の登録をしたことは明らかであると解さざるを得ない。事実、請求人は、引用商標の専用権の範囲は片仮名「インディアンモーターサイクル」と同一性を有する範囲でしかない(欧文字「Indian」等は専用権の範囲外である)にもかかわらず、本件商標中の欧文字「Indian」のロゴ(Indianロゴ)や、本件商標中の羽飾りを冠した右向きのインディアンの酋長の図形(本件図形)と同一の標章等を使用した商品の輸入販売等を行い、Indianロゴを使用して広告、宣伝を行い、請求人が本件商標の要部であるIndianロゴや本件図形の正当な使用権者であるかのごとく需要者を誤認させる広告宣伝をし、引用商標の専用権の範囲外であるにもかかわらず本件商標の要部であるIndianロゴや本件図形を使用した。
しかも、請求人は、被請求人から警告を受けながらこれを無視して侵害行為を継続し、Indianロゴ等を使用した広告を継続し、平成8年5月請求人より侵害差止訴訟を提起され(東京地裁 平成8年(ワ)第9391号)ながら、これを止めず請求人がIndianロゴ等の正当な使用権者であるかのごとき宣伝をしたため市場に混乱が生じたので混乱を回避するため被請求人が本件商標の商標権者である旨の新聞広告を打つや、請求人は、代表取締役社長小林進名下の書簡を被請求人のマスターライセンシーである株式会社サンライズ社のサブライセンシーである西澤株式会社の取引先各社、サンライズ社のノディストリビューターである株式会社三竹産業の取引先各社に送付、さらに、請求人代理人弁護士は、サンライズ社のディストリビューターである株式会社元林、三竹産業及び兼松日産農林株式会社に対し書面を送付し、もって被請求人サンライズ社、西澤社の業務を著しく妨害し信用を著しく毀損した。
請求人は、上記書面において、本件商標につき無効審判請求をした旨、本件商標が当然無効である旨、本件商標が審査を経て登録されたものであるにもかかわらず、かかる登録が過誤によりなされた無効な登録であることは明らかである旨、本件商標の使用が引用商標の商標権の侵害を構成するかのごとき旨の記載をしたものであり、しかも、元林社の取扱商品(ライター)、三竹産業の取扱商品(革ベルト、革サイフ、革キーホルダー、バックル)、兼松日産農林の取扱商品(マッチ)が本件商標の指定商品と非類似のものであるにもかかわらずこれ等三社に弁護士名で出したものであり、かかる書面の送付は、被請求人及びサンライズ社の信用を著しく毀損し業務を著しく妨害するものである。
くわえて、請求人は、本件商標の要部であるIndianロゴを使用した革製ジャケット、ブラウス及びシャツの輸入販売を行わんとして大々的に広告をしカタログを配布した。
そこで、被請求人は、東京地方裁判所に対し仮処分命令を申立て、平成8年12月16日仮処分決定を得た(東京地裁 平成8年(ヨ)第22126号事件)。
上に述べたとおり、本件審判請求は、請求人による違法な商標の使用を正当化し被請求人の業務を妨害せんがため提起されたものと解するほかなく、かかる目的によりなされた本件審判請求が権利の濫用であることは明らかであり、請求人に法律上正当な審判請求の利益は無い。
なお、被請求人は、一時、過誤により甲第23号証及び甲第24号証記載の態様の標章を使用させたことがあったが、速やかに中止し以来使用していない。被請求人がかかる標章の使用を中止したことは、東京地裁平成9年8月14日付決定(平成8年(ヨ)第22136号仮処分申立事件)により確認されたところである。ちなみに、同事件の申立人(債権者)は請求人であり、被甲立人(債務者)は被請求人等であり、同申立ては引用商標に基づくものであるが申立ては却下されている。
(3)請求人は、本件商標は前被請求人(出願人)の氏名と異なる「Indian Motocycle Co.,Inc.」を含むから、商標法第4条第1項第7号に該当すると主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第8号は、他人の名称であってもその他人の承諾を得ているものは商標登録が出来る旨明定している。そして、同号にいう「名称」とは「法人組合等の名称であって商号も含まれる」(網野誠著 商標<新版>262頁参照)。すなわち、商標法は何人も他人の商号をその他人の承諾を得て商標登録することを認めている。商標法自らが認めている行為が公序に反するものでもなく、良俗に反するものでもないことは明白である。
また、商標法第4条第1項第8号にくわえて、商標法は自己の商号を商標登録した後、当該商標を第三者に譲渡することを認めており、また、当該登録商標について第三者に対し専用使用権、通常使用権を設定することも認めている。すなわち、この点から商標法は、商号商標を当該商号の主体のみを当該商標を付した商品の出所として表示することを要求していないことは明白である。
そして、本件商標の登録出願人(前被請求人)は、平成5年10月22日付の意見書添付の甲第1号証に示すように、「Indian Motocycle Co.,Inc.」を含む本件商標を商標登録することについて承諾を得ている。
したがって、本件商標は、公序良俗に反する商標ではないから、請求人の主張に理由がないこと明らかである。
そもそも、請求人が引用する審決例はいずれも、「昭産株式会社」、「東北計器製造株式会社」という商号のみからなる商標に関するものであり、かつ、出願人目身が自己の商号と異なる商号を商標登録出願した場合に関するものであり、かかる審決例は本件商標について参考になるものではない。したがって、本件商標は商号商標ではない。
これに対して、本件商標は、羽根飾りを冠した右向きのインディアンの酉長の図形、同図形の中に配した筆記体の「Indian」の文字並びに同図形及び同文字の下に配した筆記体の「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字よりなるものであり、かつ、同図形は同「Indian MOTOCYCLE Co.,Inc.」の文字より著しく大きく、かつ、同「Indian」の文字も同「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字よりも大きく、本件商標においては識別力の中心をなすのは同図形及び同「Indian」の文字部分である。
すなわち、本件商標は、そもそも商号のみからなる商標ではないのであり、かつ、商標登録出願人自身が自己の商号と異なる商号のみからなる商標の登録出願をした場合ではないのであって、商標法4条1項第7号に該当するものではない。
なお、請求人は、第1意見書添付の甲第1号証について、同号証の内容は使用の許諾であって登録することの許諾でないと主張するが、同号証は「日本における営業目的ののために当社のロゴ(Indian Motocycle Co.,Inc.)及び商標を使用する権利を許諾する」(…grants…the right to use the company logo and trademark for pruposes of business in the territory of Japan.)と述べており、営業目的のための使用の許諾とは当然の前提として登録の許諾を含むものであり、請求人の主張は同甲第1号証の文言を曲解するものであって、失当である。
また、第1意見書添付の甲第1号証は、そのレターヘッドに記載あるごとく、Indian Motocycle Co.,Inc.の代表者であるフィリップ・エス・ザンギ氏が本件商標の出願人に対して発行したものであり、Indian Motocycle Co.,Inc.が、その商号を含む本件商標を本件商標の出願人に対して登録することを許諾したものであることは同甲第1号証より明らかである。
なお、Indian Motocycle Co.,Inc.がザンギ氏が設立した会社であり同氏が会長であることは請求人自ら認めるところであり、かつ、同社が第1意見書添付の甲第1号証の発行時に有効に存在した会社であることは、請求人提出の甲第21号証から明らかである。すなわち、1992年1月6日にサインされたAssingnment(甲第21号証)の譲受人がIndian Motocycle Co.,Inc.であり(第1意見書添付の甲第1号証のレターヘッド住所である180 Avocado Street,Springfeld,MA,01104所在のIndian Motocycle Company,Inc.はIndian Motocycle Co.,Inc.と同一である)、同社が1992年6月19日にAssignorになっている。また、Indian Motocycle Co.,Inc.は現に存続している。
したがって、「Indian Motocycle Co.,Inc.」を含む本件商標の登録については、商号の所有者であるIndian Motocycle Co.,Inc.が出願人に対して適法、有効に同意したものであり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号の同意を得て登録されたものであり、上述のごとく公序良俗に反するものではない。
つぎに、請求人の主張は本件商標中筆記体の欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」から「インディアンモトサイクル」の称呼が生ずること、及び「インディアン(北米原住民)オートバイ(二輪自動車)」の観念を生ずるというものであるが、かかる主張は全く失当である。
本件商標は、別紙に表示したとおりの構成よりなるが、そもそも商標の類否は対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合、商品の出所について誤認混同を生じ否おそれがあるか否かによって決すべきであるところ、その判断にあたっては商品に使用された商標の称呼、外観及び観念によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限りその具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。
その場合、通常は対比される商標の称呼、外観及び観念のうちの一つが類似するならば、それらの商標が用いられた商品の出所について誤認混同のおそれが生じるものと認めて差支えないが、ただ、商標の称呼、外観及び観念の類似の有無とは、本来あくまでもその商標を使用した商品についての出所の混同のおそれを推測させる一応の基準に過ぎないものというべきであるから、常に商標の類否を上記の三点のうちその一において類似するものであっても他の二点において著しく相違したり、その他取引の実情のいかん等によって商品の出所に誤認混同を来すおそれを認め難いものについては、これを類似商標とは解すべきではないというべきである(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)。くわえて、図形部分と文字部分の結合商標については、図形の持つ情報伝達力を重視すべきであり、この点は東京高裁平成9年7月25日判決 平成8年(行ケ)第269号及び東京高裁平成7年3月29日判決 平成6年(行ケ)第150号の示すところである。
まず第一に、両商標の構成自体から本件商標が引用商標と外観において全く異なるものであることは明らかである。
本件商標において、識別力の中心をなすのはIndianロゴを配した本件図形の部分であることは、本件図形がMotocycleロゴより著しく大書され、IndianロゴもMotocycleロゴより大書してあり、かつ、本件図形は特徴ある図形であり、Indianロゴも特徴ある書体であり、そして、上記判決の示す如く図形の持つ情報伝達力が大であることに鑑みればこれは当然の事である。
したがって、この点のみよりしても本件商標が引用商標と出所についての誤認混同を惹起することはありえず非類似であることは明らかである。
さらに、Motocycleロゴのみと引用商標を対比しても両者は非類似である。すなわち、第17類においては以下のように「INDIAN」及び「インディアンの図形」と「(文字)+INDIAN又はインディアン」及び「INDIAN又はインディアン+(文字)」の商標が同時に登録されている。
<1>インディアン図形(登録第431151号)、図形+INDIAN(登録第641925号)
<2>ASAHIINDIAN(登録第447870号)、図形旭+インデアン(登録第857300号)、TOM INDIAN(登録第1480975号)、ワークインディアン/WORK INDIAN(登録第2489083号
<3>INDIANRING(登録第458484号)、INDIANBABY/インデアンベビー(発録第601179号)、図形/インディアンベビー(登録第789296号)、図形/Indian Feather(登録第929048号)、インデアンフェロー(登録第950136号)、INDIANJOY/インデアンジョイ(登録第1108931号)、INDIANBIRD(登録第1156009号)、INDIANBOSS(登録第1183726号)、INDIAN MATE(登録第1884496号)、INDIANRICH/インデアンリッチ(登録第1961681号)、INDIAN SCOUT(登録第2402137号)、Indian Clubインディアンくらぶ(登録第2403942号)、インディアンイーグル/INDIAN EAGLE(登録第2500105号)
したがって、第17類においては、「INDIAN」又は「インディアン」の前又は後に「INDIAN」又は「インディアン」と同一の字体、同一の大きさで横一列に「INDIAN」又は「インディアン」と一連に(間隔を置かず)又は一体に(通常語間に置くスペースを置いて)他の語を配した商標は、「INDIAN」、「インディアン」又は「インディアンの図形」からなる商標と非類似であると取り扱われている。すなわち、「INDIAN」又は「インディアン」の前又は後に「INDIAN」又は「インディアン」と同一の字体、同一の大きさで横一列に「インディアン」又は「インディアン」と一体又は一連に文字を配した商標は、一連一体としてのみ把握し、一連一体の称呼、観念のみが生ずるものと取り扱われている。
したがって、片仮名「インディアンモーターサイクル」を横一列に一連に配してなる商標からは「インディアンモーターサイクル」の称呼のみ及び「インディアンモーターサイクル」の観念のみが生ずるものである。
したがってまた、本件商標を構成するデザインした筆記体の欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」は、「Indian」と同一の字体、同一の大きさで横一列にまとまり良く「Motocycle Co.,Inc.」を「Indian」と一体に配したものであるから、Motocycleロゴから「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のみ及び同名の会社の観念のみが生ずることも明らかであり、このことは、また、被請求人の平成6年5月25日付意見書に引用した審決例(同意見書添付甲第5号証)の示すところでもある。よって、Motocycleロゴが引用商標と非類似であることも明らかである。
以上により、本件商標が引用商標と商品の出所について誤認混同を来すおそれが無い非類似の商標であることは既に明らかである。
くわえて、かりに、Motocycleロゴ中の「Indian Motocycle」と引用商標「インディアンモーターサイクル」とを対比しても、両者は、出所について誤認混同を来すおそれが無く非類似である。
第一に、「Indian Motocycle」と「インディアンモーターサイクル」は外観において全く相違する。
つぎに、称呼「インディアンモトサイクル」と「インディアンモーターサイクル」とを対比すると、「モト」は短く歯切れの良い音であり、「インディアンモトサイクル」は全体として歯切れ良い語感を生ずるのに対し、「モーターサイクル」は「モー」、「ター」を伸ばして発音するのであり、このため「インディアンモーターサイクル」は極めて間伸びした語感を生ずる。くわえて、「モトサイクル」なる語は、我々の日常生活において全く使用される言葉ではなく(広辞苑第4版にすら登載されていない。乙第1号証)、それだけ聴者の注意を強く惹き付ける。したがって、「インディアンモトサイクル」と「インディアンモーターサイクル」とは称呼において相紛れるおそれれがない。
さらに、観念においても「インディアンモーターサイクル.」からは請求人主張のような観念は生じない。「モーターサイクル」なる言葉は、我々の日常生活において日常使用される語ではなく、「モーター」と「サイクル」から通常人が普通に観念するのは「電動機」(モーター)と「循環」(サイクル)であり(「モーター」も「サイクル」もかかる意味で普通に使用されている)、「北米原住民の」(インディアン)の「電動機」(モーター)の「循環」(サイクル)では、意味不明であり、なんら具体的な観念を生じない。他方、「モトサイクル」なる語は日常生活において全く使用されておらず、通常人にとって何らの観念も想起するものではなく、したがって「インディアンモトサイクル」からもなんら具体的な観念を生じない。したがって、「Indian Motocycle」は、「インディアンモーターサイクル」と観念の類否を間疑する余地がない。
よって、本件商標中のMotocycleロゴ中の「Indian Motocycl」のみと引用商標とを対比しても両者は相紛れるおそれれがない。
そもそも、本件商標の識別力の中心はIndianロゴを配した本件図形であり、「Indian Motocycl」は、本件商標中識別力の劣るMotocycleロゴ中の一部をなすにすぎず識別力を有せず、本件商標と引用商標とを全体として対比したときに出所について誤認混同の生ずるおそれは全くない。
よって、本件商標は、引用商標と非類似の商標であるから、商標法4条1項11号に該当しない。
4.よって、まず本件審判の請求に関し、当事者間において利害関係につき争いがあるので、この点についてみるに、請求人は、被請求人から本件商標他1件の登録商標を根拠に警告を受けていることが請求人の提出に係る甲第25号証(請求人宛の被請求人からの平成9年10月7日付の警告書)によって認められる。
してみれば、請求人は、本件商標の登録が存続することにより不利益を被るおそれがあること明らかであるから、本件審判を請求をするについて利害関係を有する者といわなければならない。
そこで、本案に入って審理するに、本件商標は、別紙に表示したとおり、図形と欧文字の組み合わされた構成よりなるところ、その構成中下段部は、やや図案化された部分を有するとしても、該欧文字部分は、「Indian Motocycle Co.,Inc.」の英文字が筆記体をもって表されたものと直ちに認識、理解し得るものであり、その構成中の「Co.,Inc.」の文字部分は、法人組織(有限責任会社)であることを示す英語「Company Incorporated」の略として一般に使用され、我が国においても知られているといえるところである。
そうとすれば、本件商標は、法人名を表示したものとしか認識し得ない「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字をその構成中に有してなるものであり、これは本件商標の登録出願人(前被請求人)である「スコット エス カジヤ(Scott S KAJIYA)」と名称が異なるものであり、しかも、該者は自然人と認められる。
そして、前被請求人は、原審において、本願商標は商標法第4条第1項第7号に該当する旨の拒絶理由通知に対し、「本願商標は、同第8号に該当し、しかも当該者の承諾を得たものであるから、この拒絶の理由はその解釈を誤ったものである」旨主張し、証拠方法として甲第1号証(承諾書及び訳文)を提出したが、該証拠に書された承諾者は、本件商標中の法人名を表したものといえる該部分と一致せず、しかも承諾の内容は本件商標を日本国内で使用することを許諾したものであって、商標登録出願をも許諾したものとは認め難いものであり、さらに、同第7号は、公益的見地に基づくのに対し、同第8号は私益的見地に基づき規定されたものであるから、この主張は採用できない。
してみれば、本件商標は、その構成中に法人名称といえる文字部分を有してなるものであるから、これを自然人である前被請求人が使用する場合、他の法律によって禁じられている法人でないものが法人格を表す語である「株式会社、有限会社」等を用いてはならないとの規定に該当し、商品流通社会の秩序に反し、かつ、公共の利益をも害するものというのが相当である。
したがって、本件商標は、請求人の主張する他の請求理由について論ずるまでもなく、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成10年4月10日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
別紙
本件商標
別紙
本件商標
<省略>